高野淨の e-column

- 第5回 -
生物に寄り添う企業はお客様から評価される

 今年10月に生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催される。現在、世界中で数多くの野生生物が絶滅の危機に瀕している。会議ではそれを防ぐための新たな目標や取り組みなどが話し合われる。人間は自然界から無限ともいえる恩恵を受けて生活している。国連環境計画(UNEP)の試算によると、生物多様性が失われた場合の経済的損失は、全世界で年間2兆~4兆5千億ドルになるという。

 生物多様性は、企業にとっても無関係ではない。農林水産業者や食品加工業者にとっては、その重要性を理解しやすいが、たとえば一般の製造業にとってはわかりにくい。しかし、輸入している原料が現地の生態系の破壊に関与していないとも限らない。知らないで済ませていると、いつ批判の矢面に立たされるかもしれない。

 大阪市に本社のあるサラヤは、環境と健康に良いと植物油(パーム油)を原料としたヤシノミ洗剤を開発した。ところがパーム油を作るためのアブラヤシのプランテーションが、熱帯雨林を破壊しているという報道がされると、サラヤは消費者からの批判にさらされるようになった。現地でその実態を目の当たりにした社長は、ここは逃げずに真正面から取り組もうと覚悟を決めた。熱帯雨林だった土地を買い戻し、野生生物が行き来できる「緑の回廊」を回復させる取り組みなどを行っている。こうした同社の熱帯雨林を守る姿勢が消費者の共感を呼び、売上も回復した。今では生物多様性保全の先進企業として高い評価を得ている。

 阪神地域に店舗展開しているヒロコーヒーは生物多様性保全に配慮したサステナブルコーヒーを販売している。コーヒー豆の生産地の多くは、多様な生物が生息し生態系の保全が必要な場所にある。このため自然環境の保護や農園労働者の貧困・人権問題などに取り組む様々な団体が、サステナブルコーヒーの生産や流通に取り組んでいる。たとえば環境保護団体「レインフォレスト・アライアンス」は「森林を守り、川や土や野生生物を保全し、労働者に対して敬意を示し、まともな額の賃金を支払い、作業に必要なものを与え、教育や医療の機会を提供している農園で栽培されたコーヒーである」ことを認証マークを付与して保証している。消費者はこうしたサステナブルコーヒーを飲むことで、生物多様性に貢献できる。ヒロコーヒーでは、社長自ら世界中の農園を見て回り、サステナブルコーヒーを仕入れ、今では販売量のおよそ70%を占めている。さらにこれを100%にする目標を掲げている。この取り組みがお客様から支持され、ブランド力の向上に貢献している。

 生物多様性に無関心でいると、ある日突然環境保護団体から非難を受けるかもしれない。自社の製品やサービスが生物多様性のどんな恵みに依存しているのか、また生物多様性にどんな影響を与えているのかを把握することが、リスク回避やビジネスチャンスの発見につながる。意外に身近なところに生物多様性に貢献できるヒントがあるかもしれない。

 大阪・難波の「なんばパークス」にはおよそ7万株の樹木を植えた屋上庭園がある。施工した大林組によると、1年間に鳥14種と昆虫93種がやってきたという。ショッピングのついでに立ち寄るお客様も多く、お店の売上アップに貢献している。人間は傍らに生物のいる生活に心地よさを感じる。生物に寄り添う企業がお客様から評価されるのは当然のことなのである。

高野 淨(たかの きよし)

27年間、電気メーカーの情報システム部門に勤務。技術、生産、販売、環境分野の経営改革推進や情報システム構築を経験。経営コンサルタントとして開業後は、持続可能な社会の実現に貢献することを経営理念として、製造業の事業戦略立案、業務プロセス改革、環境経営の推進、IT活用などの支援を中心にコンサルティングやセミナー講師等を行っている。中小企業診断士、ITコーディネータ、環境プランナーER。

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