- 第8回 -
ICTが拓く低炭素社会
最近、電車に乗るとスマートフォンを操作している人を見かけることが多くなった。普及率が携帯電話を超えるのはそう遠くはないであろう。スマートフォンは通話機能と情報通信機能を併せ持つ。まさにパソコンを持ち歩いているのと同じと言っていいだろう。ICT(情報通信技術)は誰でもどこでもいつでも使える身近なものになってきた。
身近になったICTは低炭素社会の実現に貢献できるのであろうか。ICTには低炭素社会を実現できる4つ視点がある。第一は、「脱物質化」である。たとえば紙媒体を使わずに本が読める電子書籍や、CDなどのメディアを購入することなくダウンロードすることで音楽が聴けるサービスなどがある。情報そのものに価値があるのなら、それを運ぶ物質的な媒体は不要になる。第二は、「移動代替」である。オンラインショッピングを利用すればお店に行かなくてもモノが買える。テレビ会議システムを使えば出張で長距離を移動する必要もない。自宅のパソコンから会社のLANにリモートアクセスすることで在宅勤務が可能な会社もある。人やモノを移動しなくても用件が達成できるのなら、移動にかかるCO2排出量は削減できる。第三は、「見える化」である。工場、事務所、家庭などのエネルギー使用量をリアルタイムにグラフ等で表示するシステムなどがある。「見える化」することで人々の意識を変え、行動を変える。さらに、一定のルールをシステムに組み込んでおくことで、自動的に設備の稼働をコントロールし、エネルギー使用量を低減することも可能となる。第四は、「効率化」である。販売計画や生産計画、在庫情報などをサプライチェーン全体で共有し、お客様が必要なものを必要な時に必要な量だけ生産しお届けするシステムによって、資源やエネルギーのムダを削減できる。
最近では、大手の電気メーカーや情報通信企業を中心に、エネルギーの自動計測・管理システムを市場に投入する企業が現れてきた。省エネ法の改正によりエネルギー使用量の報告義務を課せられる企業が増えたことも影響している。大阪市に本社を置く株式会社ピコエイダは、社員14名の会社ながら、業務施設向けの電気・ガス・水道の「見える化システム」を開発販売している。電気・ガス・水道のパルス信号をセンサーで読み取り、コントローラーに集め、無線でデーターセンターに送り、様々な分析を行う。利用者はインターネットを介してパソコンでエネルギーの使用状況をリアルタイムにグラフ等で確認できる。多くの利用者のデータが集まるため、ベンチマーキングも可能である。運用改善を中心とした省エネ診断、改善目標設定、省エネ支援ツールの提供、省エネパフォーマンス評価、改善提案といった施設の持続可能なエネルギーマネジメントを支援している。元々は熱交換器やホテルの給水・給湯システムを製造販売していた会社だが、温泉施設や旅館、ホテルなどの節水システムを手がけ、積み上げてきた省エネノウハウを基に、省エネのソフト開発に特化した会社として独立した。今ではスマートハウスやスマートグリッドを見据えて事業を展開している。
スマートフォンでは文章や画像だけでなく、動画を見たり配信することもできる。街中で見つけた「エコに関するちょっとした疑問」をその場で調べ、納得して行動することができる。低炭素社会は一人の努力で実現できるものではない。しかし、一人の人間のちょっとした"つぶやき"が社会全体に波及し、世界を変えてしまうかもしれない。ICTはそうした大きな力を秘めている。
高野 淨(たかの きよし)
27年間、電気メーカーの情報システム部門に勤務。技術、生産、販売、環境分野の経営改革推進や情報システム構築を経験。経営コンサルタントとして開業後は、持続可能な社会の実現に貢献することを経営理念として、製造業の事業戦略立案、業務プロセス改革、環境経営の推進、IT活用などの支援を中心にコンサルティングやセミナー講師等を行っている。中小企業診断士、ITコーディネータ、環境プランナーER。
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